今回のタルチュフでは2つのキーワードに注目しました。

その前にタルチュフという作品の背景を少し説明しようと思います。タルチュフの背景には17世紀にフランスで起こった「フロンドの乱」があります。簡単に言えば、貴族が起こした反乱で、結果的には貴族勢力が倒され、絶対王政に進んでいくというものです。もっと馴染みやすく言えば、デュマの三銃士で知られるダルタニャン物語の2部「20年後」はこのフロンドの乱が舞台になっています。

 

それはさておき、タルチュフの庇護者であるオルゴンはどうやらこのフロンドの乱で国王の為に活躍したようなのです。これはほんの数行、最初と最後に少し出てくる程度です。まずこれが1つめのキーワードです。

次に、最終幕に出てくるオルゴンが国家反逆罪を犯している友人から預かった「小箱」です。最後の大団円に繋がる重要なアイテムではあるのですが、ちょっと大胆すぎる唐突さで登場し、それについて大した説明もなく物語は終わります。

この戯曲に出てくるちょっと情報不足であるこの2つが実は重要なのではないかと考えました。

 

作品の中にはオルゴンが貴族であるという記述はないけれども、彼がもし貴族だったとしたら、フロンドの乱で権力の為に多くの友人を裏切ることもあったと思います。今回のタルチュフで彼はその良心の呵責で精神的に追い込まれています。

友人を裏切った男が、信じるものと頼るよすがを見つけ、最後にはその信仰に今度は自分が裏切られます。

タルチュフという「喜劇」を書いたモリエールには怒られると思いますが、いくつかのセリフをカットしてラストを変えてしまいました。

なので、最後に一言だけ。

 

モリエールさん、ごめんなさい。

 

演出  田丸一宏